さよならの魔法
「どこに行ってたって、あなたには関係ないじゃない!」
「俺には関係なくても、ハルには違うだろう!?」
「こういう時ばっかり、夫らしいことを言って………!!」
ああ、まただ。
また始まってしまった。
喧嘩なんて、見たくない。
聞きたくもないのに。
「ハルは、まだ中学生なんだぞ。娘の傍にいてやらないで、一体、どこを歩き回ってるんだ?」
「そんなの………、あの子だって、もう子供じゃないわ!お守りが必要な年なんて、とっくに過ぎてるわよ!!」
そうだ。
お母さんの言う通りだ。
私だって、もうすぐ15歳。
子供と言うには、大きくなり過ぎている。
しかし、そうかと言って、大人と言うにはまだ幼い。
大人と子供の間の、微妙な年頃。
小さな子供じゃない。
だからと言って、寂しくない訳じゃないんだよ。
大きくなったからと言って、寂しさを感じなくなる訳じゃない。
置いていかれるのは、悲しいんだよ。
大人は違うの?
1人ぼっちでも、寂しいだなんて思わないの?
そうだとしたら、私はまだまだ子供だということなのだろう。
きっと。
「お守りは必要なくても、母親は必要だろう!そうは思わないのか?」
「………、あの子は、私なんかいなくても平気なのよ!現に、私よりもあなたに懐いているじゃない。」
そんなの、当たり前だ。
自分に懐かないって、当たり前のことじゃないか。
いつも怒ってばかりで、話もロクに聞いてくれない。
自分ばかりが一方的に話して、1人で満足して。
そんな母親を、誰が尊敬出来るというのか。
出来るはず、ないじゃないか。
心を彷徨う、私の本音。
その本音は、決して表へ出ることはない。
私の言葉は届かない。
母親の耳にも、心にも、届くことはない。
(もう、ダメ…………なのかな。)
いつまでも続く言い争いを前に、そう実感した夏の夜。
私の家族は、何で繋がれているのだろう。
私達を繋ぐ糸は限りなく細くて、今にも切れそうなその糸を、私は切ない思いで見つめている。
家族の終わりは、すぐそこまで迫っていた。