さよならの魔法



図書館の前にいた人物。

その人が、俺のよく知る人だったから。




長く癖のある髪を、きつくギュッと編み込んだ三つ編み。

水玉模様のワンピース。

白いサンダル。


初めて見る、私服姿。

俯いた顔からは、表情まではよく見えない。


だけど、すぐに分かった。



同じクラスの橋野。

橋野 祥子。


いつだったか、天宮を磯崎の魔の手から救った彼女が、そこにいた。



夏休みに、こんな所で会うなんて。

学校外で、クラスメイトに会うなんて。


小さな町だから、珍しいことではない。

でも、橋野に校外で会うのは、初めてのことだった。



「橋野………だよな?」


俺の言葉に、わずかに頷く橋野。




「終業式以来、だな。」

「うん、久しぶり………だね!」


まともに橋野と話すのは、多分、初めてかもしれない。


同じグループになったこともない。

隣の席になったこともない。

天宮と同じくらい、同じクラスであっても関わりがなかった女の子なのだ。



何を話そうか。

それが思い付かないから、とりあえず挨拶を交わす。


俺の言葉に応じて、俯いていた橋野が顔を上げた。



「こ、こ、こんの………くん………。」


俺の名前を呼んで、再び下を向いてしまった橋野。


何故だろう。

顔が真っ赤だ。



ああ、やっぱり似てる。

どことなく、似てる気がする。


纏う空気。

包んでいる雰囲気。


橋野の持つそれは、天宮さんが持つものと非常によく似ていた。



天宮も、こんな反応をするのだろうか。

俺が話しかけたら、真っ赤な顔をして俯くのだろうか。


天宮だったら、どんな風に俺を見つめてくれるのだろう。

そう考えたら、一瞬だけ、胸の鼓動が速くなった。



「橋野も、ここで受験勉強してるの?」


俺がそう問えば、数秒の間を置いて、橋野が躊躇いがちに答える。



「………うん。あ、あの………ここが好きで、受験勉強じゃなくても、その………よく………来るから!」



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