さよならの魔法
外の空気とは、正反対だ。
蒸し暑い外の空気とは対照的な冷気が、ここには漂っている。
別世界の様だった。
古い本の匂い。
冷たい空気。
どことなく、薄暗い灯り。
ブラインドの隙間から入り込む、細い光の筋。
俺が漏らした声のせいで、周りにいる人達から一斉に視線を向けられる。
ジロリと、カウンターの中のおじさんまでもが俺のことを睨み付ける。
誰だろう、あの人。
司書?
カウンターの内側にいるから、間違いなくこの図書館の関係者なのだろうけれど。
居心地の悪さを感じて、そそくさと奥へと足を進める。
見られているとは言っても、図書館の中にいる人間は少ない様だ。
多分、2・3人といったところか。
多くても、片手で足りるほどだろう。
田舎町にある、規模の小さな図書館だ。
ここは。
町中の人が集まる様な、人気スポットなんかじゃない。
たくさんの本が、整然と並べられた本棚。
雑誌や新聞が置かれたラック。
紙という媒体を使っている読み物が、所狭しと並べられた空間。
普段の俺なら、迷わず雑誌コーナーに行くことだろう。
雑誌を手に取りたくなるけれど、俺は今日、この場所に雑誌を読む為に来た訳じゃない。
本を読みに来たんじゃない。
雑誌を読みに来たんじゃない。
受験生の本分、それは勉強だ。
勉強をする為だけに、俺はわざわざここにやって来たのだから。
本が並ぶ1階を通り過ぎ、階段を使って2階へと登る。
階段を登れば、そこには広い空間が開けていく。
本が存在することには変わりないけど、その数は圧倒的に2階の方が少ないと言える。
1階と違うのは、長いテーブルがいくつも並べられていることだ。
木目のテーブルとお揃いの椅子に腰かけ、バッグの中身を広げる。
この町の図書館の2階は、勉強スペースになっているのだ。
勉強する人や本を読む人が使いやすい様にと、テーブルと椅子がいくつも置かれている。
2階にある本のほとんどは、辞書。