さよならの魔法
いじめがつらくなかった訳じゃない。
磯崎さんから受ける仕打ちは小さな傷となり、私の心を蝕んでいたのは事実。
毎日繰り返される、小さな嫌がらせ。
その積み重ねにはうんざりしていたけど、悲しいことに慣れてもいたから。
あの子からの嫌がらせは、今に始まったことじゃない。
まだランドセルを背負っていた頃にも、味わっていたのだ。
決定的なことが起きる前だったあの頃は、私の心もまだそれほど壊れてはいなかった。
ところどころヒビが入りはしても、崩壊するまでには至っていなかった。
2年1組。
去年の出し物は、お化け屋敷。
学校祭とは言っても、参加するのは内部の生徒と関係者だけ。
外部から他人を呼ぶことは、先生から禁止されている。
こじんまりとした、内輪の人間だけのお祭りなのだ。
年に1度だけの、小さなお祭り。
みんなで1から準備をして、お化け屋敷のセットを作った。
暗幕を借りて、教室内を闇に包んで。
竹の葉なんかを、通路の脇に飾って。
衣装なんかも、もちろん手作りだ。
手作りとは言っても、大して手の込んだ物ではないけれど。
出来上がったのは、学校祭の前日。
期日的には、ギリギリだった。
教室内は、一種の異様な熱気に満ちていたことをよく覚えている。
最後までやり抜いた達成感と。
学校祭を翌日に控えた、独特の高揚と。
そんな中で、ある1人の男子生徒が浮かれてこう言い出した。
「なあ、予行練習…………してみようぜ!」
「予行練習って?」
「明日が学校祭だろ?当日にぶっつけ本番ってのも不安だし、試しにやってみない!?」
突然の提案に困惑していたクラスメイトも、次第に賛同していった。
熱気に浮かれたのは、その男子だけではなかったのだ。
達成感を感じていた多数の人間が、それに賛成した。