さよならの魔法
「いいじゃん、それ。」
「すっごい楽しそう!」
「じゃあ、とりあえず、お化け役と裏方は明日の午前中に担当するヤツで。」
「ねー、誰が最初に入るの?」
お化け役と裏方は、時間毎に担当する生徒が決められていた。
午前中に割り当てられている人間は、その役割に徹することになる。
問題は、客として中に試しに入る人間。
選ばれたのは、あの2人だった。
「どうせなら、カップルに入ってもらおうよ!」
「そうそう、その方が雰囲気出るし。」
「はい!ということで、お前らに決定ー!!」
紺野くんと増渕さん。
クラスで唯一の、公認カップル。
「………ほんとに、俺らがやんの?」
「いいじゃん、ユウキ。楽しそうじゃない?」
「しょうがねーな………。」
誰からもお似合いの2人は、冷やかされながらもその役目を受け入れた。
暗闇に包まれた教室。
闇に閉ざされた空間は、漆黒の色に塗り潰されている。
昼間の明るさが嘘みたいだ。
暗幕で遮られているせいで、日の光は教室の中には入り込むことはなかった。
客として選ばれたのは、紺野くんと増渕さん。
お化け役は、イベントごとが好きな明るい子達ばかり。
クラスでも目立たない私が抜擢されたのは、裏方だった。
私は待っていた。
闇の中で、あの2人を待つことしか出来なかった。
声を潜めて。
存在さえも、消して。
「きゃっ、暗い………!」
小さな悲鳴が、闇の奥から微かに聞こえる。
この声は、増渕さんの声だ。
怯えた声が、鼓膜を揺らす。
次に聞こえてきたのは、大好きな人の声。
闇の中でさえも分かる、好きなあの人の声。
「茜。」
紺野くん。
紺野くん。
大好きな人が呼ぶのは、彼女の名前。
「ユウキ………。」
「足元、気を付けろよ。暗いんだから。」
習性だろうか。
習慣だろうか。
身に付いてしまった癖は、そう簡単には直らない。