さよならの魔法
私はいつも、教室の中で探していた。
視界の中で探していた。
紺野くんを。
大好きな人の姿を。
彼の声が耳に入れば、心がほんのり温まる。
切ない想いに身を焦がしても、それでも聞いていたいと思う声。
つい、振り向いた。
そして、見てしまった。
寄り添う2人を。
「手、離さないでね?」
甘えた声で、そうお願いする増渕さん。
増渕さんの言葉に従って、手を繋ぐ紺野くん。
2人は暗闇の中でも、いつも通りだった。
すぐに後悔した。
どうして、振り向いてしまったのかと。
どうして、無視出来なかったのかと。
見たくなかった。
見なきゃ良かった。
目が悪ければいいのに。
もっと視力が弱かったら、こんな場面を見なくて済んだのかもしれない。
繋がれた手。
絡まり合う指先。
私が決して触れられない手。
私が決して絡められない、その指先。
暗闇の中で見てしまったのは、仲睦まじい2人の姿。
私ではない女の子と歩く、大好きな人。
唇を噛むことで、涙を逃した。
零れ落ちそうになる涙を、必死に押し込めた。
セットの奥で、ひっそりと。
本物の影みたいに。
悲しみに埋め尽くされていく心に、無理矢理、蓋をした。
見たくなかった現実を、この目で見る。
思い知った。
この恋の結末を。
行き着く先を。
それが、去年の学校祭の前日。
学校祭というキーワードで思い出す、切ない記憶。
「…………。」
知らず知らずのうちに漏れた溜め息を、苦笑いとともに宙に舞わせる。
今更、思い出して、何になるというのか。
どうなるというのか。
あの記憶は、過去でしかない。
今、目の前で起きていることじゃない。
去年の話だ。
分かってる。
理解してる。
それなのに、割り切れない。
割り切って、考えられない。