さよならの魔法
思い詰めた表情。
真剣な目。
握り締めた拳。
目が合った瞬間、私の体は強く引っ張られていた。
「や、………っ!」
傾いていく体。
バランスが崩れて、転んでしまいそうになる。
体を支える為に、一生懸命に足で踏ん張る。
それでも、体は引っ張られたままだ。
「な、に………、何するの!?」
どうして、こんなことになっているのだろう。
どうして、こんなことをするのだろう。
混乱した頭。
私の意思に反して、引きずられていく体。
止める人間はいない。
防波堤の役目を負う、立花先生は職員室に行ったまま帰ってこない。
私を睨み付け、橋野さんは熱くこう言い放った。
「ねえ、いつまで逃げてるつもり!?」
「逃げ………てる?」
「天宮さんは、いつまでこんなとこにいるつもりなの?」
大人しい橋野さん。
穏やかな橋野さん。
彼女に対して抱いていたイメージが、根本から揺らいでいく。
「………っ、それ………は………」
何も言い返せないのは、図星だからだ。
きっと。
保健室に閉じ籠もって。
立花先生に守られて。
家に帰れば、お父さんが守ってくれる。
私を責めるお母さんから、お父さんが身を盾にして守ってくれる。
感謝してるよ。
いつもいつも、感謝してる。
弱気な私を守ってくれていること。
殻に閉じ籠もってばかりの私のことを、何よりも大事に考えていてくれること。
そのことを当たり前だなんて思ったことは、1度もない。
だけど。
逃げてるって、分かってる。
守られてばかりではいけないことも、分かっている。
でも、行けない。
行きたくない。
あの場所だけには、教室にだけは行きたくないの。
どんなに罵られようとも。
どんなに責められようとも。
この気持ちだけは変わらない。
変えられない。
教室に行って、何になるというのか。