さよならの魔法
いじめだけじゃない。
磯崎さんのことだけで、私があの教室から逃げた訳じゃない。
行けない原因は、他にもある。
磯崎さんのことと同じくらい、私を悩ませている理由が。
(紺野くん…………。)
笑った顔。
目が細い彼が笑って、更に優しくなる瞳。
思い出すだけで、胸が高鳴る。
脈打つ鼓動が、その速さを増す。
大好きな人。
私の好きな人。
初めて、本気で恋をした。
焦がれるほどの恋をした。
その人の隣には、大切な人の存在がある。
私ではないあの子が、紺野くんの隣にいる。
私じゃない。
私なんかじゃ、敵わない。
気持ちは知られてしまったけど、結論は本人に聞かなくても分かっている。
ダメなんだ。
私では、紺野くんの隣に立てない。
紺野くんの隣にはいられない。
あの2人が一緒にいるところなんて、見たくない。
あの2人が仲良く話しているところなんて、視界に入れたくない。
気にしてしまう。
気にしない様にと努力しても、どうしたって気になってしまう。
紺野くんのことが好きだから。
恋に破れてもなお、忘れられないくらいに大好きな人だから。
嫉妬だって、分かってる。
醜い感情であることも、ちゃんと理解している。
それでも、見たくない。
あの2人のことを忘れていたいの。
「ねえ、天宮さん。」
「………な、に?」
「磯崎さんのことだけじゃないよね?天宮さんが教室に来なくなったのは、磯崎さんのせいだけじゃないよね………?」
私の心を見透かす様に、橋野さんがそう言う。
反論出来ない。
言葉が出てこない。
否定したくても、声にならない。
「………、それは………」
違うと言えたら、どんなにいいだろう。
誤魔化せたなら、どんなに良かったことだろう。
図星なんだ。
本当のことだから、私は何も言えない。
反論出来ないんだ。