さよならの魔法
好きな人を探られて、いい気分にはならないだろう。
話したいと思った時に、話を聞いてあげればいい。
そう思ったから。
同じ人に向けて、作っていたなんて。
同じ人のことを見ていたなんて。
私と橋野さんの視線の先には、彼がいた。
同じ人に、私達は恋をしてしまった。
分かってた。
紺野くんのことを好きになるのは、自分だけではないということ。
紺野くんは、それだけ魅力的な人だから。
誰にでも、平等に接してくれる。
誰にでも、笑顔を向けてくれる。
私みたいな目立たない子にだって、挨拶をしてくれるのだ。
他のクラスメイト達と変わりなく、接してくれる。
気持ちが分かるんだ。
他の女の子が紺野くんを好きになってしまうのも、頷ける。
あの笑顔に惹かれる。
裏表のない素直さに、心を持っていかれるのだ。
衝撃を受けたのは、同じ人を好きになったからじゃない。
確かにそのことにも驚きはしたけれど、頷ける部分もあった。
衝撃的だったのは、ずるいと思われていたこと。
そんな目で見られていたことの方が、何倍もショックだった。
(ずるい………?)
私が取った行動は、それほど恨まれることだったのだろうか。
橋野さんを駆り立てるほど、私はずるい人間なのだろうか。
逃げた。
それは事実だ。
だけど、私は、もうあの場所には行けなかった。
あの場所にまた顔を出して、何にもなかった様に生活するなんて出来なかった。
非難されるべきは、私だったのか。
私の取った行動は、間違いだったのか。
心が壊れても、なお、あの場所に通い続けなければいけなかったのか。
「1人だけ逃げて、ずるいよ。………傷付いてるのは自分だけだなんて、思わないでよ。」
橋野さんの言葉が、私の心を切り刻んでいく。
信頼していた人からの言葉だからこそ、その傷が深く心の隙間に入り込む。
チクリと痛む胸。
無数の針が刺さったみたいだ。