さよならの魔法



「そんなこと、思って………」

「私だって、紺野くんのことを見ているのはつらいの。切ないの。………でも、だからって、あなたみたいに逃げたりなんかしない!」


同じ思いを、私達は抱えていた。


叶わない想いに苦しんで。

届かない手に、涙して。


目の前で、好きな人が別の人と結ばれるのを見ていることしか出来なかった。

どうすることも出来なくて、だから、あの日、バレンタインデーに送る物を作ったのだ。



「ねえ、もう逃げないでよ。」


橋野さんがそう言って、私の手を引っ張る。

先ほどよりも強い力で、私を連れ出そうとする。


彼女が、私を連れていこうとしている場所。

それは、きっと教室だ。


まだ1度も行ったことのない、3年1組の教室だ。



「いや………、嫌………っ!!」


橋野さんの手を振り払いたい。

振り払って、戻りたい。


それなのに、非力な私にはそれが出来ない。

思っていたよりも強いその力に、屈したままになっている。



行きたくない。

行きたくない。


まだ会えない。

まだ普通な顔をして、紺野くんの前には立てない。



あの水色の箱のことなんて、紺野くんは忘れてしまっているかもしれない。

他人から聞かされた告白のことなんて、覚えていないかもしれない。


でも、私はーーー………



忘れることなんて、無理だ。

忘れられない。


初めて作った、バレンタインデーにあげるチョコレートのことも。

想いを込めて書いた、小さなカードのことも。


忘れられないの。

忘れたくても、忘れられない。



紺野くん。

紺野くんーーー………


好きなんだ。

あんなことがあったのに、私はまだあなたのことが。




「私と天宮さんは、友達なんでしょう?」

「………そう、だけど………」


こんなことをされても、まだ友達と呼べるのか。

こんなことを言われても、その関係にあるのか。


自信が持てなくて、言い淀む。

はっきり肯定することが出来ない。



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