さよならの魔法
『幻』
side・ユウキ







中学3年。

中学生活、最後の夏が去っていく。


夏が終われば、当然の如く、学校が始まる。



中学最後の夏休みとは言っても、中身はほんとに味気のないものだった。


遊びにもロクに行けず、勉強漬けの毎日。

学校に行かないというだけで、やっていることは同じこと。


学校が再開してから、そんな毎日に登校するという義務が加わるだけだ。




勉強をしなければならない身だということは、自分でも理解してる。

進級したばかりの頃みたいに、反発しようとはさすがに思っていない。


諦めと言うべきか。

ようやく、自覚が芽生えたと言うべきか。


自分自身の未来の為だと思えば、机に向かう気にはなる。



感じる息苦しさに、たまに溜め息をついて。

言い様のない不安に、心も体も悲鳴を上げて。


そんな現状を打ち破りたくて、再び机にかじり付く。





1年のうちでも1番行事が多いのは、夏休み明け。

それは受験を控えた3年だって、同じこと。


受験に追われていることに変わりはないけれど、そんな俺達にも密かに楽しみにしている行事がある。



それは、学校祭。

1年に1度の、学校をあげて盛り上がる日。


受験生に許された、羽を伸ばせる唯一の日。



その日を迎えた俺は、だだっ広い校庭に立っていた。











「いらっしゃいませー!」


薄いブルーの空の下。

線を描いた様に広がる、白い雲。


どことなく哀愁を帯びた秋の空気を吹き飛ばす、元気な声が耳に届く。



色とりどりの旗を吊るした校庭の一角。

学校の名前が印字されたテントの中に陣取る、3年1組のメンバー。


みんなでお揃いの法被を着て、通り過ぎる人に声をかけている。



校内だけで催される小さな祭りの参加者は、この学校に通う生徒とその関係者のみ。

保護者だって、関係者のうち。


小さな祭りを盛り上げるのは、生徒達自身だ。



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