さよならの魔法
楽しかった夏休みを通り過ぎ、茜の本音を知ったばかりの頃だ。
2人で一緒に、他のクラスの出し物を回った。
差し出された手に、苦い気持ちとともに手を重ねて。
うちのクラスの出し物であるお化け屋敷の最初の客は、俺と茜だった。
周りに冷やかされて、半ば、無理矢理に客に仕立てられただけだけど。
茜は楽しそうにはしゃいでいたけれど、俺はあの日もどこか上の空だった気がする。
好きになりたかった。
茜の全てを受け入れたかった。
でも、現実はそう上手くはいかないもので、そうしようとすればするほど、俺の気持ちはどんどん茜から離れていく。
止めようと思っても、止まらないほど。
俺が茜との距離を少しずつ置き始めたのも、ちょうど同じ頃。
心と心の距離は開いていくばかりで、亀裂は修復することなく深くなるだけ。
距離を置くことで、俺は茜を傷付けた。
悪友の矢田を差し置いてまで選んだはずなのに、俺は結局、茜の手を自ら離したんだ。
バカだった。
初めて告白されたからって、浮かれていたんだ。
周りの人間を傷付けるだけ傷付けて、俺はようやく自分のバカさ加減に気が付いた。
安易に付き合うことを決めるもんじゃない。
勢いも確かに恋愛には必要な要素なのだろうけれど、それだけで突き進んだら、後で後悔するということを嫌というほど学んだのだ。
俺はもう2度と、あんな風に安易に答えを出すことはないだろう。
もう誰のことも、傷付けたくはないから。
大切な人を巻き込んでまで、自分の幸せだけを追い求めたくはないから。
そうしたところで、自分が幸せになれるとは思えなくなっていた。
学校祭。
年に1度しかない、祭りの日。
去年の俺の隣には、彼女だった茜がいて。
今の俺の隣にも、同じ人がいる。
ただし、去年とは違う形で。
「ユウキ!」
俺の名前を呼ぶ、茜の弾んだ声。
俺の隣には、真っ赤な法被を着た茜が立っている。