さよならの魔法



集中していく意識。


俺が見ているのは、隣にいる元カノではない。

俺の意識は茜にではなく、遠く離れた場所で言い争うクラスメイト2人に向けられている。



「1人………逃げ………、ずるい………。」


ああ、この距離がもどかしい。


言葉の隅々まで聞き取ることが出来ない距離。

単語がところどころ聞こえるだけで、2人が何を原因として言い争うのかまで分からない。



あんなに仲の良かった2人が、今は言い争っている。

険悪な雰囲気だけを漂わせて、睨み合っている様に見える。


俺が知ってるあの2人は、あんな感じではなかった。



もっと、普通に仲のいい友達で。

お互いを信頼している様に見えて。


俺と矢田みたいな悪友という訳でもなく、ほんとの親友である様に周りの人間には見えていたのに。



理由が分からない以上、どっちが悪いのかは分からない。


そもそも、俺はあの2人とそれほど仲がいいという訳ではないのだ。

ただのクラスメイト。

それ以上でも以下でもない、薄い関係なのだから。



部外者の俺には、関係ないのかもしれない。

関わってはいけないことも、頭では理解している。


でも。

それでも、止めたいと思った。

あの喧嘩を止めてやりたいと、そう思ってしまった。



あんなに仲が良かったんだ。

磯崎の残虐ないじめを戦い抜いた2人が、今ではいがみ合っている。


仲が良かったことを知っているからこそ、止めたかった。

いがみ合うことを止めさせたかった。



手を取り合って、つらい時間を我慢してきたんだ。

苦しい時間を乗り越えてきたんだ。


そんな2人が対峙するなんて、そんなの、悲しいだろ。




「………!」


無言で走り出す俺。


周りなんて、見えていなかった。

隣にいた茜のことさえ、忘れていた。


走り出した俺を、慌てて茜が止める。



「ユウキ!」

「………、離せよ。………俺は」

「ど、どこに行くの?職員室、こっちだよ!」



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