さよならの魔法
『離婚』
side・ハル







「ねえ、いつまで逃げてるつもり!?」


逃げるということは、それほどいけないことだったのだろうか。

心が壊れてもなお、逃げることは許されなかったのだろうか。


そうならば、私はもうーーー…………



「天宮さんはずるいよ。………ずるいんだよ。」


「1人だけ逃げて、ずるいよ。………傷付いてるのは自分だけだなんて、思わないでよ。」


大人に守られて。

温室の中で甘やかされて。


そうして、私は逃げていた。



「私だって、紺野くんのことを見ているのはつらいの。切ないの。………でも、だからって、あなたみたいに逃げたりなんかしない!」


逃げた私に下された罰。



「私も、私だって………紺野くんのこと、ずっと好きだった。ずっと好きだったんだから!」


そうだったんだね。


私と橋野さんは、同じ人を見ていた。

ずっと、同じ人のことが好きだったんだ。


気が付くのが遅過ぎたんだね。




忘れない。

忘れられない。


橋野さんの言葉が、頭の中でこだまする。



「私と天宮さんは、友達なんでしょう?」


そうだね。

そうだった。


友達だと思ってたよ。




「友達なら、………だったら、1人だけ逃げるなんて………許さない。」


友達って、何なの?

友達って、どういうものなの?


怖いよ。

怖いの。



人を信じることが怖い。

他人が怖い。


何を考えているのか、分からないから。

表面的には笑っていても、腹の中ではどんな気持ちを抱えているのか、分からないから。



何を信じたらいい?

誰を信じたらいい?


教えてよ。

誰か、私に教えて。










中学3年の冬。

年が明ける直前に、両親の離婚が決まった。


私からしてみれば、ようやく決めたのかという感想しかなかったけれど。



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