さよならの魔法
朝日が部屋の窓から差し込み、小さな4畳半の部屋を照らす。
もうすぐ朝。
夜が明けていく。
昔は、この時間が嫌いだった。
夜が明けて、朝になる。
新しい1日が始まるこの時間が、憂鬱で仕方なかった。
朝なんて、来なければいい。
ずっと、夜のままでいい。
朝がやって来たら、学校に行かなくてはいけなくなる。
学校になんて行きたくない。
学校に行ったって、いじめられるだけだもの。
だけど、今は。
「………紺野くんに会いたいな。」
早く、夜が明ければいい。
そうすれば、紺野くんに会える。
大好きな紺野くんに会える。
紺野くんと初めて会ったのは、1年前の春。
私の名前と同じ季節。
恋を知った季節から、また一回りして同じ季節が巡ってきた。
1年経った。
しかし、この1年間、私と紺野くんの間には何もなかった。
悲しいくらいに、何も。
ただのクラスメイトのまま、1年間が終わって。
グループ分けですら、同じグループに入ることも出来なくて。
それでも、私は満たされていた。
だって、学校に行けば、紺野くんに会える。
教室に行けば、紺野くんの笑顔が見れる。
それだけで、私は十分だった。
十分過ぎるくらいに幸せだった。
季節が巡って、春が来る。
春休みが終わって、今日から新学期。
今日、私は2年生に進級する。
少し不安なのは、クラス替えがあること。
うちの学校は、入学時と2年に進級する時にだけ、クラスを新しく編成するのだ。
1学年で、3クラス。
確率的には、3分の1。
約33パーセントの確率でしか、紺野くんと私が同じクラスになることはない。
1年は紺野くんと同じクラスになったけど、今年もそうだとは限らない。
むしろ、同じクラスにならない可能性の方が高い。
祈らずにはいられない。