さよならの魔法



クラスメイトにとっても。

先生にとっても。


それとは対照的に、養護教諭の立花先生は、心底悲しんでくれた。



「天宮さんがいなくなるなんて、信じられないわ………。」

「すいません、ご報告が遅くなってしまって。」

「ご両親が離婚だなんて、可哀想に。つらい思いをしたでしょう?………天宮さんは、まだ中学生なのに。」



両親の離婚は仕方のないことなのだと、自分でも割り切っていた。

仲の悪さは近所でも噂になるほどだったし、離婚は止めようのない現実だ。


だけど、立花先生は、自分のことみたいにそう言ってくれた。

涙を流してまで、私との別れを惜しんでくれた。


それだけで、ほんの少し、心が温かくなった。





3月。

卒業式の日。


最後なのだからと、式に出る様に勧めてくれたのも、立花先生。



「中学の卒業式は、1度しかないの。長い人生の中で、たった1度きりなのよ。」

「そう、ですけど………。」

「出ないで後で後悔するより、ちょっとだけ勇気を出してみない?」


出なかったら、私は後悔するのだろうか。


どうして、卒業式に出なかったのかと。

どうして、少しだけ勇気を出すことが出来なかったのかと。


立花先生でなかったなら、私は素直に頷かなかったことだろう。



「はい、………分かりました。」



この1年間、お父さんとともに、私の心を守ってくれた立花先生。

見た目は厳しそうに見えても、こんなにも私のことを考えてくれる人。


こんな先生、他にはいなかった。



立花先生が居場所を作ってくれたから、私は学校に通い続けることが出来た。

立花先生の言葉があったからこそ、今、私はここにいる。


立花先生がいなかったら、私は卒業式に出ることはなかったことだろう。





引っ越しを翌日に控えた、3月初旬。

まだ寒い、春の日。


私は、卒業式が行われる体育館の入り口に立っていた。



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