さよならの魔法
『試練』
side・ユウキ







2月。

山あいの小さなこの田舎が雪に包まれる頃、俺は初めての試練に立ち向かっていた。


電車に乗って、1時間。


程良く栄えた県庁所在地のある、地元では有名な進学校。

俺は、そこを第1志望の高校にした。



どんな将来が待っているのか。

どんな未来へ向かっているのか。


まだ、俺には見えない。



これから先の自分の姿。

未来の自分が。


今は、手探りで探っている状態だ。


どんな道へでも、難なく進める様に。

偏差値の高い高校を卒業しておいて、損になることはないはずだ。



ちょっとだけ、電車通学というものに憧れていたのは両親には内緒だ。


私立だし、授業料も公立よりずっと高い。

だから、両親には感謝しているし、申し訳ないとも思ってる。



ありがとう。

そう言ったら、こう返された。


「気にしなくていいのよ。」

「そうだぞ。お父さんも、会社で自慢出来るじゃないか!」


多分、冗談半分なんだろう。

俺が気にしない様に、そう言ってくれたのだと思いたい。



ホッとしたのは、試験会場に茜の姿がなかったことだ。


俺が選んだのは、私立の共学。

男子だけでなく、今までみたいに女子もいる高校。


共学だから、茜と同じ高校になってしまったらどうしようかと思っていたのだけれど、この心配は杞憂に終わることとなった。

その代わり、別の人物を見つけることになってしまったのだが。










「こーーーんの、おはよ!」


耳慣れた声が、見知らぬ土地で響く。

変声期を経て低くなったその声を聞き、溜め息が出るのは何故だろう。


ここにいるはずがない。

そう思っていたからだろうか。



「どうして、お前がここにいるんだよ!!」


俺の目の前にいたのは、あの男。


矢田だ。

もう何年もつるんでいる、俺の悪友とも呼ぶべき男だった。



(何で、矢田がここにいるんだよ…………!)



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