さよならの魔法



今日という日の為に、努力してきた。



最初は反発してた。

やる気もなかった。


だけど、俺も悟ったから。



これは、誰しもが通る道。

必要なことなんだって。


未来の俺に繋がる為に通らなければならない、試練なのだと。





カチカチ。

カチカチカチ。


時計の針が刻む音。

シャーペンの芯を繰り出す音。


紙の上を、細い鉛の線が滑っていく。



やれるだけのことはやった。

100%の力ではなかったかもしれないけれど、出せる力は全て出したつもりだ。


合格ラインに達したかどうかは、正直に言うと自信がなかった。

結果が出るのは、卒業式の後だ。



どこか怯えながら、その日を待つ。

残りわずかになった授業を受けていれば、自然と卒業式までのカウントダウンが始まっていく。









「紺野も、もう卒業か。早いなー。」

「そうですね、先生。あんまり、まだ実感ないですけど。」

「寂しくなるわ、お前がいなくなると………。」



「あーあ、もうすぐ、紺野ともお別れだな。」


あまり会えなくなるのは、事実。

それを考えると、俺だって寂しく感じる。


だけど。



「同じ町に住んでるんだし、いつでも会えるじゃん!それに、卒業式はまだ先だろ?」





思えば、いろいろなことがあった。

いろいろな経験をした。


たくさん笑って。

たくさん悩んで。


壁にぶつかって。

それを乗り越えて、俺は今、ここにいるんだ。



この学校に入学してきた時よりは、大人になれたのだろうか。

少しでも、人間として成長したのだろうか。


卒業は、通過点でしかない。

卒業式の先にも、未来は繋がっているのだ。




そして、その日。

みんなと別れを告げる日。


俺は、体育館の中でその時を待っていた。



< 283 / 499 >

この作品をシェア

pagetop