さよならの魔法
最後だから、頑張ろう。
これが最後になるのだからと思えば、頑張れる気がした。
それに、私は一緒に卒業したかったんだ。
紺野くんと一緒に、この学校を卒業したかった。
好きになった人の顔を見てから、旅立ちたかった。
立花先生の言う通り、中学校の卒業式は人生の中でたった1度だけしかない。
代わりはない。
次もない。
今日だけだから。
今日という日は、もう2度と訪れない。
だから、どうしても私は、紺野くんと一緒に卒業式を迎えたいと思ったんだ。
1人きりで卒業していくことよりも、叶わなくても、届かなくても、大好きな人と一緒に卒業したいと思った。
合わせる顔なんて、ないけれど。
顔を見るのが怖いとも思うし、逃げたいとも思ってしまうけれど。
それでも、最後にちょっとだけ、好きな人の顔が見たかった。
自分の中だけでも、別れを告げてからいなくなりたかった。
保護者の群れを掻き分けて、体育館の端を歩く。
密集している人の間を縫って歩くのは、少し息苦しく感じる。
紺色のセーラー服に、真っ白なスカーフ。
気に入っていた制服を着るのも今日でおしまいだから、胸を張る。
緊張を悟られない様に。
心の内を見抜かれない様に。
辿り着いた、卒業生の席。
3年に進級してからは1度も立ち入ることのなかった、私のクラス。
3年1組。
体育館の中でも、最前列に並べられた席。
在籍こそしていたものの、私は教室に顔を出すことは最後までなかった。
名簿に名前が載っているだけで、そこには存在していない生徒だった。
それなのに、私の席は用意されていた。
不登校児だった私の席は、1番隅にきちんと置かれていた。
(私の席、ちゃんとあった………。)
一応、担任の佐藤先生から聞いていた。
天宮さんの席は、ちゃんと準備しておくからと。
天宮さんが座りやすい様に、1番端に置いておくからと。