さよならの魔法



見つめているだけで、心が満たされた。

遠くから見ているだけで、十分だった。


それだけで、胸がいっぱいになったのだ。



好きでいられれば、それで良かった。



同じ教室の中に存在していられるだけで、私は幸せだったのに。




ずっとそのままでなんて、いられるはずもない。

変わらないまま、時が流れていくことはなかった。


2年になって、状況は変わっていく。

私の小さな願いは崩れていく。



いじめ。

紺野くんに出来た、大切な人の存在。


そして、あの日。

私が教室に行くことを止めるきっかけになった、バレンタインデーの出来事。



今、思えば、起こるべくして起こった出来事だったのだ。


歪みは、きっとそれよりも前からそこにあった。

壊れる寸前まで、私が気付かなかっただけで。


思い出すだけで、涙が出る。

スーッと、頬に涙が伝っていく。



好きだった。

大好きだったよ。


今でも、ほんとは好きだけど。

忘れることなんて、結局出来ないままだったけれど。



今日で、全てを終わりにするの。

卒業するんだ。


この学校から。

大好きなあなたから、卒業する。



大好きだよ。

紺野くんのことが大好きだよ。


だから、幸せになって下さい。

どうか、これからも笑顔でいて下さい。


紺野くんにたくさんの幸せが降り注ぐ様に、私は祈っているから。

ここではない場所で、ずっと祈っているから。










「終わったな。」

「………うん、そうだね。」

「ハル、よく頑張ったな。」


卒業式が終わった後、お父さんはそう言って褒めてくれた。

私の頭を、小さな子供にそうするみたいに撫でてくれた。


忘れない。



お父さんと2人で帰った、帰り道。

その日に見上げた空の色を。


私、ずっと忘れないよ。



見上げた空が青くて。

あまりにも青くて、涙が溢れる。


澄んだ空は、彼そのもの。

初めて会った時と変わらない、彼の印象そのものみたいだ。




その日。


私は紺野くんと言葉を交わすこともなく、中学校を卒業した。



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