さよならの魔法

『卒業』

side・ユウキ







くすんだ雪雲が晴れて、青い空が広がっていく。

この山あいの小さな町から、長く厳しい冬が立ち去ろうとしている。


春が来る。

穏やかな季節が、生まれ育ったこの町の景色を変えていく。



3月上旬。

俺達がこの学校を巣立つ、その時。


ついに、卒業式を迎える。



3年間着続けた学ランには、見慣れぬ花飾り。

真っ黒な制服に咲く、1輪の赤い花。


花飾りには、祝・卒業の3文字。



卒業式自体は、初めてという訳じゃない。


幼稚園だって卒業しているし、小学校だって卒業している。

小学校を卒業した時にだって、こうして制服を着て出席していたのだ。



同じと言えば、同じ。

それなのに、何かが違う気がしてる。


それは、俺が大人に近付いたから感じることなのか。



小学校の卒業式は、ただ単純に嬉しいという感情しか湧かなかった。

子供らしく、はしゃいでいたんだ。


初めて、袖を通す制服。

お互いの制服姿を見せ合って、気恥ずかしさを隠す様に笑っていた。



寂しいと思うことはなかった。

悲しいとも思わなかった。


知っていたから。


そこに、別れがないことを。

みんなと同じ学校に進学することが分かっていたから。




しかし、中学校の卒業式は違うのだ。

小学校を卒業する時とは、状況がまた変わっている。


みんながみんな、同じ高校に進学する訳ではない。

むしろ、別の高校に進んでいく人間がほとんどなのだ。


同じ高校に進学する人数なんて、たかが知れている。



今日という日が終わってしまったら、もうなかなか会うこともないだろう。

少なくとも、今までの様に顔を合わせる機会は減るだろう。


毎日顔を合わせることは、もうないのだ。

これから先も、ずっと。


同じ町の人間だからたまに顔を合わせることはあっても、今までみたいにという訳にはいかないんだ。