さよならの魔法
もう一方の当事者である橋野は、あれからも普通に登校していた。
何食わぬ顔をして。
何もなかったみたいな顔をしているその神経はいまいち理解出来なかったが、何かを聞き出す気にもなれなかった。
おそらく、聞いたところで、自分を擁護する発言しか返ってこないだろうとも思っていたし。
また、何でもないんだよって言われるのが目に見えてる。
偶然目が合えば、顔を真っ赤にする橋野。
恥ずかしそうに俯く橋野を冷ややかに見てしまうのは、あの学校祭の日のことを知っているせいだろうか。
天宮のことが気になってはいたものの、特に何かも出来ないまま、今日という日を迎えてしまったのだ。
卒業という日を。
この学校から巣立っていく日を。
俺、期待してたんだ。
もしかしたらって。
最後だから来てくれるかもしれないって、心のどこかで期待してた。
どうして、そんな風に思っていたのだろう。
そんなはず、ないのに。
天宮がここに来るはずなんて、ないのに。
天宮にとって、嫌な思い出しか残っていない場所。
不快な気持ちにしかならない場所なんだ。
学校という場所は。
いじめという残忍な遊びで、磯崎に傷付けられて。
何も悪いところなんてなかったのに、暇潰しに付き合わされて。
磯崎が消えたら、今度は信用していた人間から裏切られた。
友達だと思っていた人間から、手のひらを返した様な態度を取られたのだ。
俺は、当事者じゃない。
天宮、本人じゃない。
だけど、バックレたくもなる。
サボりたくもなる。
卒業式に出たいだなんて、思わなかっただろう。
卒業生の入場が終わり、ほんのわずかに空いた時間が生まれる。
そのわずかな隙間みたいな時間に、あることに気付いた。
先生達は、式の進行の段取りを確認してる。
他のクラスメイト達は、落ち着かない様子でソワソワしてる。
気が付いたのは、きっと俺だけ。