さよならの魔法
「紺野 有樹。」
「はい!」
誰よりも大きく、返事をする。
走馬灯の様に、これまでの日々が蘇っていく。
3年間の記憶の断片が蘇って、そして巡っていく。
入学してすぐ、気の合う仲間を見つけた。
今となっては、同じ高校を受験してしまう仲でもある。
矢田。
バカみたいに明るくて、デリカシーが欠けている男。
それなのに、どこか憎めない友達。
信じられない行動もあった。
理解出来ない言動もあった。
だけど、結局、いつもつるんでいたのは矢田だった。
同じクラスには、天宮もいて。
天宮とは3年間、クラスも一緒だったな。
2年に上がって、茜と仲良くなって。
告白されて、茜と付き合い始めて。
人間関係の難しさを知ったのは、ちょうどこの頃のことだ。
楽しい思い出も、もちろんある。
しかし、それ以上に苦い気持ちを味わってもいた。
今となっては、それさえも過去の時間の中での出来事。
自分の弱さを知った。
意気地のなさを思い知った。
正義感だけは人一倍強くクセに、何も行動を起こせない自分。
そんな自分のことが、俺は、世界で1番嫌いになったよ。
助けてあげたい人がいた。
救ってあげたい人がいた。
手を差し伸べてあげたい人がいた。
俺は、最後まで見ていることしか出来なかった。
俺には、茜を責めることなんて出来ない。
茜を批判することなんて、出来ないんだ。
同じだったから。
俺だって、茜と同じだったのだから。
何よりも軽蔑していたのは、自分自身のこと。
違ったのは、その現実を受け入れているかどうか。
そこだけ。
あの頃、手を差し伸べられていたら。
周りなんかの目を気にせず、天宮の手を取っていたら。
今、こうして後悔することはなかったのだろうか。
こうして、思い悩むことはなかったのだろうか。