さよならの魔法



分からない。


残るのは、後悔ばかりだ。

あの子の手を取ってあげれば良かったという、悔いる気持ちだけしか残っていない。


今の俺には。




横を見れば、両隣の男子が瞳を潤ませている。

ウルウルと、今にも零れ落ちそうな涙。


その向こうに見えた、天宮の姿。




一筋の光が流れていく。

彼女の頬を流れ落ちていく光。


光だと思っていたそれは、涙で。

照明を反射した涙が光って、重力に逆らうことなく、床へと落ちていった。



しゃくり上げて泣くこともない。

声もなく、音もなく、ただ静かに泣く女の子。


俯かずに真っ直ぐ前を見据えて泣く彼女に、視線を奪われる。



俺は、あんな涙を見たことがなかった。

あんな綺麗な涙なんて、見たことがなかったんだ。


美しいと思った。

彼女が描いた絵の様に、その涙はとても美しいものだった。



「………っ、………。」


視線だけじゃない。

心までも奪う、その涙。


ああ、俺、天宮の泣いた顔ばかりを見ている気がする。

笑った顔よりも、泣いている顔を多く見ている。


その涙が、その泣き顔が、俺の心をギュッと切なく締め上げていく。



どうしてだろう。


こんな風に苦しくなるのは。

こんな風に切なくなるのは。


好きじゃない。

付き合っている訳でもない。


それなのに、どうしてなんだ。



俺と天宮の関係なんて、言葉で表せばただ1つ。

クラスメイト。


それ以上の繋がりなんて、何もないのだ。



親しいとは言えない仲だった。

話したことだって、片手で数えるくらいしかない。


それなのに、心が揺さぶられる。

その泣き顔に、心が締め付けられる。


どうしてなんだ。

どうして。



彼女の涙は、確かに俺の脳に刻まれた。


記憶に深く刻まれた涙。

卒業式の記憶。


それは、何年経っても忘れられないものとなった。



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