さよならの魔法



第2ボタンの意味くらい。

他のボタンでは意味がない、上から2番目のボタンだけにある特別な意味。


好きな人の第2ボタン。

女の子にとっては、何よりも意味のあるボタン。



最も、心臓に近い位置にあるから。

その心を手に入れたいと願うから、そのボタンが特別視されるのだ。


男である俺には、それほど特別な意味は感じなくても。

俺からしてみれば、ただの制服のボタンの1つに過ぎない。


そこら辺が、男と女の考え方の違いなのか。



「第2ボタン、私にちょうだい………!」


その言葉を言われる前から、勘付いてた。

知ってたよ。


茜の気持ち。

茜が隠していた想い。



茜はきっと、別れてからもずっと俺のことを想ってくれていた。

俺なんかのことを、一途に想い続けてくれていたんだ。


慎重になるばかりで手さえ出さなかった、俺のことを。



必要以上のスキンシップ。

付き合っていた頃と変わらない振る舞い。


口では友達だと言い張っていたけれど、そうは思っていないことくらい、俺だって分かってた。



分かっていたから、茜のことには細心の注意を払った。

わざと、距離を置いていた。

冷たく接していたのも、期待を持たせたくなかったからだ。


俺の中では、茜とのことは既に終わったことだったんだ。

元に戻ることなんて、考えられない。


相容れないものが、俺と茜の根本にある。

奥底にある考え方が許せないほど違うのに、恋人として茜を再び受け入れることは出来なかったのだ。



いつか、こんな日が来るんじゃないかと思ってた。

その時が来ただけなんだ。


答えは、ずっと前から決まっていた。





「これは、このボタンは………茜にはあげられない。」


茜にだけは、あげてはいけないんだ。


茜の気持ちを知っているから。

茜がずっと、俺のことを見ていたことを知っているから。


ギュッと、第2ボタンを握って言う。



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