さよならの魔法
『故郷』
side・ハル







ガタン、ゴトン。


さっきまで乗っていたはずの電車が、ホームから消えていく。


ホームから伸びる、1本だけの線路。

田舎町にある、唯一の駅。



ヒューーー………


冷たさを含んだ北風が、ホームに降り立った私の体を容赦なく揺らす。



(さむ………っ。)


だけど、嫌じゃない。

この寒さを知らない訳じゃない。


この冷たさを、私は知っている。

この冷たい北風を、私の体はまだ覚えている。



だって、私はこの町で生まれた。


ここで生まれて、ここで育った人間なのだから。



(何も変わらないんだ………。)


この古びたホームも、駅舎も。

山から吹き下ろす、冷たい風も、全て。



駅員なんて、1人しかいない。


その理由は、利用する人があまりいないから。

そんなに多くの人を割くほど、ここを使う人間がいないからだ。



駅舎を出れば、前に広がるのは寂れた商店街。

いや、商店街と呼ぶことさえ躊躇ってしまう。


閉められた、鉄製のシャッター。

営業中なのは、ほんの一部の店舗のみ。


シャッターが閉まった店の方が多いくらい。

昔はそれなりに栄えていたであろう、この町の中心地。



瞼を閉じれば、思い出す。


幼い自分。

泣きながら、何度もこの町を歩いた。


制服姿の自分が、今になって私の心臓を締め付けていく。



もう、5年も前のこと。


この寂れた町を歩いているのは、あの頃の自分じゃない。



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