さよならの魔法
「よりは戻せない。………やり直せない。」
「ユウキ………、嘘だよね?嘘でしょ………?」
「もう俺は、そんな風に………茜のことを好きになれないんだ。」
本音だけを、淡々と紡いでいく。
それが、茜をまた傷付けることになっても。
それが、今の俺と茜に必要なことなのだと、そう信じているから。
「茜のこと、もう好きじゃない。好きになれない………。」
ああ、俺って最低だ。
最悪な男だ。
こんな言葉でしか、別れを告げられない。
傷付ける言葉を選ぶことでしか、納得させてやれない。
罪悪感で押し潰されそうになる。
酷い言葉を吐けば、嫌いになってくれるだろうか。
俺のことを憎んでくれるだろうか。
嫌いになって欲しい。
嫌いになって、俺のことなんて忘れてくれ。
俺のことなんて忘れて、新しい1歩を踏み出して欲しいんだ。
忘れた方が、茜は幸せになれるんだ。
きっと。
自分勝手で、弱虫で。
正義感を秘めているだけで、行動には移せない意気地なしで。
ちっぽけな人間なんだ、俺は。
茜が思っているほど、いいヤツなんかじゃない。
いい男じゃない。
だから、忘れてくれ。
なかったことには出来ないなら、せめて思い出になればいい。
何年後かに、笑って思い出せる思い出に。
微笑んで思い出せる、そんな記憶に。
それが1番いい答えなのだと、俺はそう思ってる。
「い、や………嫌だ………、嫌だよ………!!」
「茜………。」
「ユウキは、私だけのものだったのに…………。さよならなんて、したくないのに………、そんなの嫌、だよ………!」
嘆く茜を、俺は最後まで見つめることしか出来なかった。
卒業式は、あの子を見た最後の日。
あの子の涙を見た、最後の記憶。
涙が刻まれた卒業式は、俺の中で苦い思いが残る記憶となった。