さよならの魔法
『新天地』
side・ハル







さよなら。

さよなら。


何度も何度も、この言葉を繰り返す。



さよなら。

さよなら。


自分を変える為ならば、私は何度だって魔法をかけてやる。



引っ込み思案な自分のことが、私は1番嫌いだった。

何も言えない自分のことが、私は大嫌いだった。


変わりたかった。

閉じ込められた檻の中から、私はずっと抜け出したかったんだ。



さよなら。

さよなら。


昔の自分。

弱い自分。



さよなら。

さよなら。


ねえ、私は変われるのかな?

この言葉で魔法をかければ、自分を変えられるのかな?









春。

卒業式が終わった後、私達親子は生まれ育った町を後にして、東京へと旅立った。


灰色のビルが立ち並ぶ、大きな街。

都会の街に住む人は、みんながみんな、早足で急いでいた。



(どうして、そんなに急ぐの………?)


何度、そう思ったことだろう。


田舎育ちのせいか。

根が、のんびりしているせいなのか。



私には、そこまでして急ぐ理由が分からなかった。


早足で、焦って。

他の人のことなんて、目もくれずに。


その様子は、どことなく、人生をも生き急いでいる気がしてならない。

不思議だったのだ。




多くの人が蠢く街。

そこは、望み通りの世界だった。


私のことを知っている人なんて、ここには誰もいない。

いじめられていた私を知る人なんて、この大きな街には存在しないのだ。



寂しさなんて、感じなかった。

むしろ、感動したくらいだ。


なんて、素晴らしい世界なのだろうと。



都会の片隅。

住宅街の中に建てられた小さな古いアパートを借りて、私とお父さんは1から生活を始めた。


家事をやってくれる人は、ここにはいない。

お父さんが仕事でいない分、私が動かねばならない。


大変なことばかりだったけど、苦痛には感じなかった。



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