さよならの魔法
ハル。
そんな風に私のことを呼ぶのは、今まで家族だけだった。
いつも1人ぼっちで、友達がいなかった私。
やっと出来た友達だった橋野さんでさえ、私のことを天宮さんとしか呼ばなかった。
ハルと呼んでくれることはなかったのだ。
それなのに、何の躊躇いもなく、目の前の女の子は私のことをハルと呼んでくれる。
ずっと昔から仲が良かったみたいに、私を下の名前で呼んでくれる。
くすぐったい様な、それでいて嬉しい様な、変な感覚。
思わず、フッと笑ってしまう。
何の先入観もなく、私を見てくれる。
私の過去を知らないから、今の私をそのままの姿で受け入れてくれるんだ。
それって、こんなにも嬉しいことだったんだね。
私が欲しかったもの。
望んでいたもの。
それが、ここにある。
「じゃあ、私は千夏ちゃんって呼ぶね。」
「えー、呼び捨てでいいのに!」
呼び捨てでも構わないと言ってくれることはありがたいけれど、私にとってはこれでも頑張っている方なのだ。
今日、初めて会った人と話す。
それだけでも大変なことなのに、苗字ではなく、名前で呼び合う。
他の人にとってはどうってことはないことでも、私にはとても勇気が要ること。
千夏ちゃんは不満そうにしていたけれど、気を取り直してこう呟いた。
「んー、ま、いっか。千夏って呼ばれるのが多かったから、何か変な感じがするけど………ハルなら全然いいや!」
おかしいな。
あんなに、他人と話すことが苦手だったのに。
ましてや、初対面の人と普通に話すなんて、私にしてみれば有り得ないことだったのに。
どうしてだろう。
出来ないと思っていたことが、出来るのは。
無理だと思っていたことを、頑張ろうと思える様になったのは。
あの魔法のお陰なのだろうか。
自分自身でかけた、魔法の効果が表れているのだろうか。
「あのねー、ハル。私、実は、ハルが驚く様な秘密があるんだよね。」