さよならの魔法



わざとだ。

そうに決まってる。



「えー?じゃあ、何って呼ぶんだよ。」

「普通に呼べ。普通に!!」

「ユウちゃん?」

「お前は、俺に大ちゃんって呼んで欲しいのか!?」


ああ、コイツ、マジでぶっ飛ばしてやりたい。




「怒るなよー!ちょっと、からかっただけじゃん。」

「お前にユウちゃんとか呼ばれると、鳥肌立ってくるんだって!」

「ユウちゃん!」

「お前、ほんとバカだな!バカとしか、言い様がない………。」

「うるせー、紺野。バカって言ってる方がバカなんだよ!」

「俺はバカじゃない!お前は、バカだけど。」



小学生みたいなやり取りをしていれば、教室のあちらこちらからクスクスと笑い声が漏れてくる。


いや、違う。

笑われてるんだ、完全に。



矢田と絡んでいると、どうしても中学時代の様なノリに戻ってしまう。


俺がガキなのか。

矢田がガキなのか。


2人とも、子供なのだ。



笑われてることに納得はいかないけど、それも何だか許せてしまった。


まあ、いいや。

コイツのお陰で、俺は今日も楽しく笑っていられる。


そう思うから。



矢田と話をしている時間は楽しいと思えるし、力が抜ける貴重な時間でもある。



俺を、昔から知る人間。

同じ中学からともに同じ高校に進学してきた、数少ない同級生だ。



今でこそ矢田は笑顔でいるけれど、矢田にも転機となる出来事はあった。

矢田は高校に入ってすぐ、付き合っていた林田と別れたらしい。


理由までは、俺もよく知らない。


本人にしか分からないこともあるだろうし、いろいろ思うこともあったのだろう。

俺と茜が、そうであった様に。



別の高校に進学した林田と、なかなか会えないとは聞いていた。

学校が離れれば、それだけ会う機会も自ずと減ってくる。


同じ学校に通っていた中学の頃と、同じ様には過ごせなくなる。



別れたと聞かされた時には、心底驚いた。



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