さよならの魔法



勉強漬けの毎日だから、たまには体を動かしたくもなる。

さすがに、毎日、部活に出ることまでは強制されないのが好都合だった。


忙しさの余り、出席率が悪いから、幽霊部員扱いなのは言うまでもない。





息抜きがてら、気が向いた時に顔を出す部活。


真っ白な上衣。

紺の袴。

弓道衣に身を包めば、気持ちも自然と引き締まる。



目を閉じて、集中する。

意識を研ぎ澄ませ、的に向かっていく。


真っ直ぐ。

ただ、真っ直ぐに。



弓を射る瞬間が、昔から好きだった。


シーンとした空間。

冷たいくらいに空気が張り詰めて、むしろ、その張り詰めた空気が心地よくすら感じるのだ。



シュッと音を立てて、矢を放つ。

余計なことなど考えず、前だけを見る。


的に当たった時の気分は、何とも言葉では言い表せないものだ。


最高に、気分がいい。

胸の奥まで、スッと晴れる。



中学時代も、こうして弓を射っていた。

引退をするまでは、今よりも多く。


この気持ち良さが忘れられなくて、弓道を止められない。

たまにしか弓を持てないのが、残念だけれど。









過ぎていく時間。

日々の生活に追われる毎日。


時折よぎるのは、誰かの影。

遠い時間の向こう側にある、暗い影。



その影は、一体、誰のものなのだろう。


ふとした瞬間、切なくなるのはーーー………

泣きたくなるのは、どうしてなのだろう。



よぎる影を切なく感じながら、俺はひたすら前へと突き進んでいた。



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