さよならの魔法



「うるさい、矢田。別にいいじゃん、そんなこと………。」


俺にとっては、本当にどうでもいいことだった。

告白してきてくれた女の子には、申し訳ないけれど。


元々、恋愛方面には疎い俺だ。

今の俺の中では、恋愛という要素は重要な位置を占めてはいないというだけのこと。



「もしかしてさー、お前、本気でそっち系?」


矢田がそっち系と言い表しているのは、男が男を好きになる場合のことだ。

同性同士の恋愛ということ。


偏見は俺の中ではないけれど、答えはもちろんNOだ。



「まさか、俺………狙われてたりする!?」

「だーれが、お前を狙うんだよ!!バカじゃねーの!?」


若干引きながら矢田がそんなことを言い出すから、堪らず、一発お見舞いしてやる。

鉄拳制裁だ、矢田。


ゴツンと鈍い音を立てて、俺の拳が矢田の脳天に直撃した。



「いってーな!」

「そうだろうな。痛いだろうな………力込めてるから。」

「お前、何するんだよ!冗談に決まってんじゃん………。」

「矢田が言うと、冗談に聞こえねーんだよ。」

「い、慰謝料寄越せ!ジュース1本で勘弁してやる。」

「あー、はいはい。」


誰がおごるか。

ああ、ちょっとだけスッキリした。


矢田が恨めしそうな目で俺を見ていたけれど、気にしない。



恋愛だけが全てじゃない。

それだけで、世界が回っているのではないのだから。


恋愛に時間を割く余裕が、そもそも今の俺にはないのだ。

それほど夢中になれる誰かに出会うことも、この時の俺にはなかった。



俺と違い、矢田はコロコロ付き合っている女の子を変えていたのを覚えている。

いろいろな女の子と付き合っては、別れていく。


そんな矢田を、俺は隣で苦笑いしながら見つめていた高校時代。





進学校の勉強は、様々な教養を俺に与えてくれる。

中学時代には得られなかった知識を、スポンジみたいに吸収していく毎日。


勉強自体は難しくはあったけれど、その分だけやり甲斐はあった。



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