さよならの魔法
頑張っているだけあって、成績は普通くらい。
トップクラスに食い込むことはないけれど、先生に呼び出されるほど悪くもない。
元から、頭がいい方なんかじゃなかった。
天才ではないから、人並み以上に努力をしてこそ、ようやくこの位置にいられるのだ。
もっと要領よくやれたなら、他に目を向けられるくらいの余裕も生まれるのだろうけれど。
それほどいい成績ではなかったけれど、高校は
何とか卒業出来た。
そして、今は大学に通っている。
地元では有名な、公立大学の2年だ。
さすがに、大学までは矢田と一緒になることはなかった。
腐れ縁も、どうやら高校までだったらしい。
仲がいいのは相変わらずだから、大学に入った今でも連絡だけはしょっちゅう取り合っている。
実家から通うのは大変だからと、大学のすぐ近くにアパートを借りてもらった。
憧れだった1人暮らしも、今年で2年目。
自由で気楽な生活を手にした分、何かと大変であることも事実。
だって、家のことは自分で全てやらなければならない。
待っていたって、誰もやってはくれないのだ。
寝坊したって、誰も起こしてなんかくれない。
今までの生活が、いかに恵まれたものであったのか。
親元を離れることがなかったら、それを実感することはなかったことだろう。
今、住んでいるアパートだって、親名義だ。
家賃も学費も、生活費だって親が援助してくれているから成り立っている。
俺1人では、何も出来ない。
いつか、恩返しがしたい。
そう思う様になった。
大人になった証拠なのだろうか。
たまにしか帰らない俺を心配した母親がアパートを訪ねてきたのは、秋の終わり頃。
久しぶりに見る母さんの顔は、実家で暮らしていた頃よりも少しだけ老けた気がする。
でも、やっぱり優しい顔だ。