さよならの魔法



「紺野くーーーん!!」

「うるせー、紺野くんって呼ぶな!」


おちゃらけて、わざとそう呼ぶところは今でも変わらない。



そして、茜。


ああ、始めは、増渕って呼んでたな。

最初から、茜と呼んでた訳ではなかった。



「わ、私、私ね、紺野のことが好きなの!」


まだ、茜が俺をユウキとは呼んでいなかった頃。

ただの友達だった頃。


茜はそう言って、俺に告白をしてくれた。

内に秘めていた想いを打ち明けてくれた。



俺は、浅はかだった。

単純だった。


初めて女の子に告白されたからって、浮かれてたんだ。

舞い上がっていた。



その告白を受けることが、大事な友達を傷付けるということを分かっていながら、茜を受け入れた。


叶わない想いならば、仕方のないことなのだと。

一方通行の気持ちは、いつかは終わらせなければならないのだと。


大事な友達を傷付けてまで選んだ茜でさえ、考え方の違いから遠ざけてしまった。



(バカだったんだ、俺は………何も分かってなんかなかった。)


今の俺なら、そんな決断はしない。

後先考えず、重要なことを決めたりはしないだろう。


安易な答えが他人を深く傷付けてしまうことがあるのだと、誰よりも分かっているから。

身に染みて、そのことを実感しているから。



もう、過去なんだ。

あの頃のことは、今の俺にとっても、茜や矢田にとっても過去でしかない。


御託を並べたところで、言い訳にしかならないことも知っている。



巡る記憶。

掘り返される過去。


最後に思い出したのは、やっぱり天宮のこと。





揺れるカーテン。

教室の端で佇む彼女の姿が、残像として脳を支配していく。


いじめられていた彼女。

いじめられていたことを知っていたのに、見ていたのに、何も出来なかった俺。


気が付いていたのに、救えなかった。

何もしようとしなかった。



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