さよならの魔法



頼まれた訳じゃない。

手を差し伸べてあげなければならない義理もない。


だけど、助けてあげたかった。

俺は、あの子のことを助けてあげたいと思った。


俺の心が、俺自身がそう望んでいたんだ。



それなのに、そう出来なかった。

差し伸べようとしていた俺の手は、いつも途中で止まってしまっていた。


情けなかったよ。

そんな自分のことが、情けなくてしょうがなかった。



1月10日。

その日は、成人式の日だ。


同窓会の予定は、ちょうど成人式が終わった後の時間にセッティングされている。



都合がいい。

元から、正月は実家に帰るつもりだった。


バイト先には交渉すれば、休みももらえるとは思う。

何も、県外の大学に通っている訳ではないから、実家からバイト先にも通えないこともない。



成人式にも、出席する予定だ。

成人式の為に新調したスーツは、まだ出来上がってはいないのだけれど。


昔の記憶に浸り、しばしの間、懐かしい時間の流れの中に溶け込んでいく。

懐かしい時間の流れの中から俺を呼び戻したのは、穿いていたジーンズのポケットから伝わる振動だった。





ブルルルルと、震えるポケット。



(あー、そういえば、マナーモードにしたまんまだった………。)


出先でマナーモードに設定したままだった携帯電話を確認してみれば、そこに表示されているのはあの男の名前。


矢田 大地。

中学時代からの付き合いのアイツの名前が、明るく映し出されている。



(昔を思い出してたら、すぐに電話来るし。)


何だろう。

不思議なもので何かと繋がっている、この感覚は。


テレパシーの様なもので、俺とアイツは繋がっているのだろうか。



ちょうど思い出していた人間から、都合良く電話がかかってくるなんて。

そんな偶然、この世に存在するのか。


運命か。

腐れ縁か。


腐れ縁だと信じたいけれど。

不思議な感覚に囚われながら、俺は通話ボタンを押した。



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