さよならの魔法
彼女を作るつもりはないからといって、男に走る気は全くないのだが。
俺、偏見はないけど、至ってノーマルだし。
矢田のことは好きだけれど、それはもちろん
友達としてだ。
「あー、もうそれ以上言うな!」
「………おい。」
「お前が俺のことを好きなのは知ってるし、実は、俺だって満更でもないんだ。」
「矢田、人の話を聞け。」
お前、ノーマルじゃないのかよ。
そっち系の人って、お前のことかよ。
「俺とお前は、相思相愛だから!!」
「ふざけんなー!俺は、お前と友達以外の付き合いなんてするつもりはないからな………。」
矢田。
お前の脳を解剖して、中身を見てみたいよ。
いつものくだらないやり取りが、セピア色に染まっていた空気を吹き飛ばしていく。
矢田の手にかかれば、空気を変えるなんて簡単なこと。
いいムードとか、雰囲気とか、そういう類いのものは鮮やかなくらいに消えてくれる。
矢田とは、そういう男だ。
「ところで、紺野………本題に入るけど。」
やっぱり、先ほどの言い合いは冗談半分だったらしい。
矢田は話を打ち切って、別の話題を口にする。
それは、俺と同じことが矢田にも起きていることを知らせるものだった。
「お前のとこにも、あれ………来てる?」
「あれって?」
「あれだよ、あれ!同窓会のハガキだよ。」
同窓会のハガキと言われて、俺は再び、手元にある真っ白なハガキに視線を落とす。
俺宛てに届いた、同窓会を知らせるハガキ。
懐かしい母校の名前が記された、往復ハガキ。
どうやら、別のクラスだった矢田のところにも、似た様なハガキが届いているらしい。
別のクラスだから、俺が手にしているハガキとは違うものだろうけれど。
「あー、届いてるよ。お前のクラスも、やっぱりやるんだ?」
「やるみたいだな。さっき来たばっかだよ。」
「俺も、俺も。わざわざ、実家から母親が持ってきてくれたし。」
俺の言葉に被せる様に、矢田が弾んだ声で答える。