さよならの魔法
口を開けば、女の子の話ばっかりしてて。
好みの女の子のことに関してだけは鋭くアンテナを伸ばしていて、中学生にしてはませたガキだった様に思う。
ませた中学生だった矢田は、そのまま大人になってしまったらしい。
「矢田、お前………この間、新しい彼女が出来たとか言ってたじゃん。」
嬉しそうに、俺にわざわざ電話してきてたクセに。
どこ行ったんだよ、あの時のお前は。
「それは、それ。楽しみはたくさんあった方が、人生って豊かになるだろ?」
お前が語るな。
人生ってやつを。
何なんだよ、その理屈は。
合ってるんだか、合ってないんだか。
相変わらずの矢田と交わした、1つの約束。
「お前も、成人式に出るんだろ?」
「おー、もちろん!」
「クラスは別だから、同窓会は一緒に行けねえし。せめて、成人式くらいは一緒に行こうぜ。」
「あー、はいはい。分かったよ………ちょっと楽しみだな。」
俺は矢田みたいに、可愛い女の子目当てで成人式に行く訳じゃない。
純粋に、友達と一緒の成人式を楽しみにしているだけだ。
たった1度の成人式。
顔馴染みの連中と、いつもとは違った空気の中で過ごす時間。
中学時代に仲良くしていた他の友達に会うのは、もしかしたら卒業以来のことになるかもしれない。
みんな、どんな大人になっているのだろう。
どういう経験をして、どう成長したのだろうか。
見た目だけではなく、どんな人間になったのだろう。
「成人式といえば、着物だよな!」
「まあ、確かに。」
「可愛い女の子の着物姿って、何かさ………萌えない!?」
「………。」
もう、何も言うまい。
言うことはない。
用件は済んだだろうから、無言で電話をプチッと切ってやった。