さよならの魔法



来るはずのない天宮を、俺の目は虚しく探し続ける。



バカだな、俺。


天宮。

なあ、天宮。


中学時代の虚しい記憶が、ついさっき起きた出来事みたいに、ふと蘇る。



救えなかった、あの子。

手を差し伸べたかったのに、それが出来なかった俺。


俺は、こんなにあの頃を思い出してしまうのだろうか。



悔やんでいるからか。

あの頃の自分の行動を誰よりも悔やんでいるから、昔を思い出してしまうのか。


戻らない過去に縛られているのか。



思い悩む俺の隣で、矢田がポツリと声を漏らした。




「あ………」


先ほどまであんなにはしゃいでいた矢田が、俺の隣でたじろぐ。

気まずそうに、視線をさ迷わせた矢田。


見慣れないスーツ姿の矢田がたじろぐ、その理由。

矢田の視線の先に、答えが隠されていた。



矢田の視線の先にある、2つの人影。


5年の時を経て、大人になった。

大人っぽくなっていたけれど、すぐに分かってしまった。



(茜、だ………。)


あの頃と同じ、ボブの長さに切り揃えられた髪。

フワッと弾ませた髪には、薄紅色の髪飾り。


花の形をした髪飾りを差し、髪飾りと同じ色の口紅が、唇に色を乗せる。



明るい彼女を彩る、着物の赤い色。

燃える様に真っ赤な振袖を纏う茜が、視線の先にいる。


茜の隣には、若草色の振袖を着た女の子。



遠目に見ても分かるくらい、派手なメイク。

長い睫毛が、元々の顔立ちを消している。


メイクが濃いから、パッと見では、分からない人もいることだろう。

だけど、あれは。



(林田………か?)


そうでなければ、矢田がここまで反応することはないだろう。


矢田が初めて、付き合った女の子。

矢田が誰よりも、大切にしていた女の子。


林田 優美。



不真面目な矢田だったけれど、林田とのことだけはきちんとしていた。

今の矢田みたいに、適当な付き合いをしてはいなかった。


俺が知る限りでは、真剣に付き合っている様に見えたのは林田だけだ。



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