さよならの魔法
だから、矢田は焦ってる。
目に見えて分かるほど、焦っているのだ。
いつもヘラヘラ笑って、おどけているばかりの矢田。
そんな矢田から、表情というものが失われていく。
その理由は、林田。
お互いの初めての彼女が、俺達の視線の先にいた。
「おーい、矢田………どうした?」
すっかり元気のなくなってしまった矢田に、そう問いかける。
無理もない。
矢田は、あんなに林田のことを好きだったんだ。
高校さえ別でなかったら、今も付き合っていたのかもしれない。
矢田と林田は。
「いや、………だって、ほら………さ。」
矢田がぎこちなく、口を動かす。
明らかに、挙動不審だ。
不審人物だ。
よろめきながら、矢田が物影へと隠れる。
物影へと身を隠した矢田が、小さな声で俺に疑問をぶつけた。
「紺野、お前は平気なの?」
「ん?」
「優美ちゃんの隣にいるのって、その………あ、茜ちゃんだろ!?」
「そうだな………。」
林田の隣にいるのは、どう見ても茜だ。
「気まずくないのかよ?」
矢田のその疑問に、俺は苦い微笑みを向けた。
気まずくない、と言えば、それは嘘になってしまう。
俺の中では、茜は苦い思い出の象徴なのだ。
天宮のこともそうだけれど、茜とのことも、悔いの残る思い出の1つである。
「茜の考えてること、思ってること、感じてること………俺には受け入れられない。」
「え?」
「違うんだよ。俺と茜は………違い過ぎるんだ。」
「な、んで………?」
酷い言葉で、別れを告げた。
俺を好きだと言ってくれていた茜のことを、俺は自分勝手な都合で傷付けた。
最後の日だって、そうだ。
「わ………たし………、私、ユウキが好きなの。別れる前から、別れてからだって、ずっとユウキのことが好きだった………!」
「好き………だよ、ユウキ………。ユウキのことが好きなの。」
「茜、俺は………もう………」
「やり直そうよ………。もう1回、私と付き合おうよ!今度は、今度はちゃんとするから!!」