さよならの魔法
キャンバスは、無限大の可能性を秘めている。
真っ白なだけのそこには、どんな絵でも描くことが出来るから。
どんな絵でもキャンバスに描くことが出来る様に、メイク次第でどんな自分にでも変身出来る。
不思議な仮面。
女の子の魅力を引き出してくれる術。
自信を持たせてくれるのが、メイクなんだと思う。
念入りにしたメイク。
絵を描く様に、自分の顔を作り上げていく。
作品みたいに。
黒いニットのセーターに、短めのデニムのミニスカート。
それだけだと寒いから、グレーと黒のチェック柄のタイツも履く。
この町の冬をなめてはいけない。
甘く見たら、すぐに寒さに凍えてしまうことになるだろう。
(大丈夫………かな?)
くるりと鏡の前で回ってみれば、この間かけたばかりのストレートパーマを当てた長い髪が、動きに合わせてサラリと揺れる。
鏡の前にいるのは、セーラー服を着ていた私じゃない。
何も言えずに泣いていた、あの頃の私なんかじゃない。
外見だけなら、別の人みたいに変わってしまった自分が映っていた。
変わったと思っていた。
変われたのだと信じていた。
あの頃の自分なんて、消えてしまったのだと。
だけど、私は気付いた。
気付かされてしまったのだ。
西脇さんから送られてきたあのハガキが、私が必死になって塗りたくっていたメッキを剥がした。
いとも簡単に、変わったと思っていた自分なんていないのだと思い知らされた。
本当の私は、何も変わってなんかいない。
大人しくて。
内気で。
弱虫な私は、ちゃんと私の中に存在しているんだ。
あの頃と変わらずに、私の中に存在している。
それを知られたくないから、仮面を被る。
メイクをして、あの頃の私が着ない様な服を着て、仮面を被ろうとしてる。
変わった自分。
あの頃とは違う自分を見せ付けたかった。
中身は何も変わってなんかいないのに、違う自分をアピールしたかったんだ。