さよならの魔法
笑顔でそう言ってくれたその子は、磯崎さんの取り巻きの中にはいなかったはず。
あのいじめには、関与していなかったと思う。
関わりはしなかったけれど、助けてくれた訳でもない。
蚊帳の外で見ていた、大勢のクラスメイトのうちの1人だったはずだ。
「ほら、天宮さんって、近付きにくい雰囲気があったっていうか………」
「あー、そうだねー。」
うんうんと、頷きながら、別の女の子が相槌を打つ。
その言葉は私の心にさざ波を起こすものだったけれど、私は黙って聞いていた。
決して、いい気分にはならない。
あの頃を思い出して、息が詰まりそうになる。
複雑に絡み合う気持ちを苦笑いで隠し、口を挟まずにジョッキを軽く傾ける。
「大人しかったあの天宮さんが、こんなに綺麗になって帰ってくるんだもん!驚いたよねー?」
「驚いた、驚いた!!今年に入ってから、1番驚いたよ。」
「ぷっ、あはは………っ!今年に入ってからって、まだ10日しか経ってないじゃん!!」
「それも、そうだねー。何、言ってんだろ。」
入口にいた西脇さんも、私を見て驚いていた。
名乗るまで、誰なのかが分からなかったほどだ。
5年前の私を知る人には、今の私の姿は相当な驚きを与えてしまっているらしい。
あの頃の自分と同じ様に見られたくなくて、気合いを入れた。
外見だけは変わった自分を見て欲しくて、あの頃の私が着ない服を選んだ。
全てはちっぽけなプライドの為だったけれど、気合いを入れたことは無駄にはならなかったみたいだ。
そのことに、密かに安堵する。
「あ、ありがとう………。でも、全然綺麗なんかじゃないから、褒めないで。みんなの方が、ずっと大人っぽくていいなって………思うし。」
「天宮さん、もしかして照れてるー?」
「顔、赤くなってるー!可愛いー!!」
からかっているのか。
本気なのか。
私のことを持ち上げてくれるのは嬉しいけれど、そういうことに慣れていないから、どうしても戸惑ってしまう。