さよならの魔法



あの頃とは違う視線を、周りの女の子が向けてくれる。


蔑んだ目でもない。

関わりたくないと言いたげな、冷たさを孕んだ目でもない。


女の子独特のノリで盛り上がっていたその時、ドスンと隣で物音がした。





(な………に?)


物音がした隣に目線を向けてみれば、そこにいたのは体格のいい男の子。

真っ白な大きめのパーカーを着る彼には、確かに見覚えがある。


縁のない眼鏡をかけた、丸い顔。

その奥にある、二重の目。


記憶の中から彼の名前を引っ張り出すよりも先に、私と会話をしていた女の子の1人が、彼をこう呼んだ。



「松島じゃん!すごい久しぶりー。」

「おー、卒業以来じゃねえ?」

「久しぶりなのはいいんだけど、ここは女子会エリアなんだからさ!男は、あっちに行っててよー。」


松島くん。

その名前に、悲しいくらいに体が反応してしまった。



(松島くん………。)


そうだ。

松島くんだ。


忘れるはずがない。

どうりで、どこか見覚えがあると思っていたのだ。



サラサラの髪。

縁のない眼鏡。

大きな体。


学ランを着ていないだけで、隣に座るのはあの頃の松島くんとそう変わらない彼。



その言葉に怯えた。

その目が怖かった。


眼鏡の奥にある目が、私のことを冷たく見下しているようで、私はその目を心底恐れていたのだ。



今日は、磯崎さんもいない。

橋野さんだって、姿を現さないまま。


今日来ているメンバーの中だけで言えば、私が最も苦手に思っているのは、彼だと言っていいだろう。


女の子達の非難の声にも負けず、松島くんはゆったりとした動きで座布団の上に座り直してしまった。



「うるせーな、別にいいじゃん。」

「はー?」

「ここ、俺んちだし。どこに座ろうが、俺の勝手だろ。」

「うわ、憎たらしーい!そういうとこ、あんた変わってなーい!!」

「何だよ………、5年で性格なんて、そうそう変わんねーっつーの!」



< 385 / 499 >

この作品をシェア

pagetop