さよならの魔法
確かに、松島くんの言葉は間違いではない。
人の性格なんて、そう簡単に変わりはしない。
5年という年月は、長い人生の中ではとても短い時間なのだ。
5年という時間では、人の性格を変えることなんて出来やしない。
固く決意していた私だって、何も変われなかったのだから。
同じクラスだった女の子とふざけながら、言い争う様に話をしていた松島くんだったけれど、会話が途切れた一瞬、松島くんの目は私に向けられる。
どこか刺す様な、鋭い目。
疑う様なとでも、表現すればいいのだろうか。
一瞬の隙を突いて、松島くんは私に話しかけてきた。
「なあ、お前………天宮、だよな?」
「………!」
訝しむ低い声が、私の中に眠る忌まわしい残像を呼び覚ます。
無意識に構えてしまうのは、あの頃の松島くんの姿をよく覚えているから。
紺野くんとは別の意味で、忘れられずにいるから。
「天宮だよな?」
松島くんの中では、確信に近いものがあるのだろう。
私が誰なのか、分かっていて聞いているのだ。
念を押す様にもう1度そう聞かれ、私は仕方なくこう答えた。
「うん、そうだよ………。」
眼鏡の奥からぶつけられる、松島くんの真っ直ぐな視線。
射抜く様な強い視線が、5年前を思い出させる。
あの頃感じていた怯えまでも、蘇らせる。
何を言われるのだろう。
どうして、私なんかに話しかけてきたのだろう。
私は決して、松島くんと良好な関係を築いていた訳ではなかった。
私よりも仲のいい人は、いくらでもいるだろう。
他に話が出来る人なんて、たくさんいるはずなのに。
つまらない話しか出来なさそうな私なんかよりも、他の人と話した方が楽しいと思うのに。
どうして、私なの?
その疑問は、松島くん本人の口から語られた。
「やっぱりなー!そうだと思ったんだよ。」
鋭かった視線が一瞬にして緩み、松島くんの目尻にシワが寄る。