さよならの魔法



「ま、松島………くん?」


あの松島くんが、笑ってる。

磯崎さんと一緒になって、私をからかってばかりいたはずの松島くんが、私の前で笑ってる。


それは、5年前のことを思えば信じられないこと。

戸惑うなという方が、無理だ。


私の戸惑いに気付かない松島くんは、明るい笑みを称えたままでこう言った。



「いや、さ………、天宮が来てるってみんなが言うから、ちょっと話がしたいなーと思って。」

「話って、私………と?」


一体、何を話すと言うのだ。

同じクラスだった5年前ですら、ロクに話をしたことなんてなかったのに。


あんなに、私のことをからかっていた。

あんなに、私のことを嘲笑っていた。


それなのに、いじめの対象としてしか見ていなかったはずの私と話したいだなんて、どういうつもりなんだろう。




「………。」


聞きたい。


私なんかに話しかけてきた、その理由を。

いじめていた私に近付いてきた、その訳を。


でも、聞けない。

聞けないよ。



怖くて、聞きたいことを聞けずに口をつぐむ私。

そんな私に近寄る、松島くん。


ニヤリと笑い、そっと声を潜め、松島くんは私の耳元でこう囁いた。



「天宮、変わったよな。すっげー可愛くなった。」

「は?か、可愛い………!?」

「そう、可愛いよ。だからさ、もっと仲良くなりたいなーって………。」



私が可愛い?

私と、もっと仲良くなりたい?


あの松島くんが?



松島くんが見ているのは、今の私。

あの頃の私ではない。


分かっていても、驚かずにはいられなかった。

反応せずにはいられなかった。


予想外の松島くんの告白に、私は腰を抜かしてしまったのだ。



「え、いや、ちょっと………それは………」


冗談だと思いたい。


いや、冗談だとしても笑えない。

本気で笑えない。



あの松島くんと、私が仲良くなる。

冷たい視線ばかりを送っていたはずの松島くんが、今は私に妙に熱っぽい目で見られている。


有り得ない。

考えられない。



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