さよならの魔法



脳内に再生されるのは、やはり、あの頃の記憶。

拭い去ることの出来ない、5年前の記憶。





「うわー、まーた誰かさん、先生の前でいい子ぶってる!!」

「内申点、稼ぎたいんじゃないのー?」


まだ、私が教室に通っていた頃。

2年生だったある日、私は磯崎さん達に捕まっていた。


内申点なんて、気にしたことはない。

先生に頼まれたから、たまたま通りかかった私が手伝っただけなのに。



あることないことを言われるのは、慣れている。

こんなこと、小学生の時から言われてきた。


それでも、悔しいと感じない訳じゃない。

グッと唇を噛み締めている時に、松島くんに言われた一言。



「そこまでして、内申点稼ぎたいの?必死だなー………。」


ボソッと、小さく。

だけど、確実に聞こえる声で、松島くんはそう言った。


かばってくれるなんて、思ってない。

磯崎さん達から守ってくれるだなんて、期待してない。


それでも、その言葉にショックを受けたことだけは、今でもはっきり覚えている。

6年以上経った、今でも。



「う、う、う、嘘………だよね?」


どうか、嘘だと言って欲しい。

お願いだから、笑って嘘だよって言って。


そんな願いを、松島くんはあっさり打ち破っていく。



「嘘じゃない。」


心が、悲鳴を上げる。

両手をブンブンと振って否定しようとするけれど、松島くんが笑って、それを更に否定してくれる。


嘘だ。

嘘だ。


こんなの、嘘だ。



松島くんに、私が好かれるなんて。

クラスメイトではない目で、松島くんが私のことを見ているなんて。


嘘だ。

嘘に違いない。



どうしたって、あの頃の記憶が付きまとう。


それくらい、私はあの頃のことを忘れてなんていない。

あの頃のことに囚われて、今を生きている。



それなのに、松島くんとどうこうなるなんて、考えられないのだ。

そういう対象としてなんて、見られないのだ。



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