さよならの魔法
『同窓会』
side・ユウキ







初めての成人式というものは、感慨深いものがあった。


大人になったせいか。

市長の長い話に居眠りをすることもなく、しっかりとその話に耳を傾ける。



人生観。

教訓。


やたらと難しい言葉を使って、俺達に人生とは何たるかと伝えようとしている市長。



周りの連中は、ほぼ話なんて、聞いていなかったと思う。

小声で話をしているか、居眠りをしているかのどちらかだった。


しかし、俺だけでもと、真面目に話を聞いていた。



20歳になったからといって、すぐに大人になれる訳じゃない。

体つきと年齢だけは大人の仲間入りを果たしたけれど、中身は子供のままというヤツも多いことだろう。


そんな半分ガキみたいな俺達に、何かを伝えようとしている。

伝えたい思いがあって、話しているのだということが分かったから。


だから、黙って聞いていた。

壇上に立つ、その人の話を。





成人式を無事に終え、1度、実家に戻る。


着慣れていないせいか、スーツというものはどうにも肩が凝るのだ。

着ていたスーツを脱ぎ捨てれば、すぐに訪れる解放感。



「んー、あーーー、疲れたーーー!」


自分の部屋のベッドの上に放り投げた、スーツのジャケット。

その上に、思いきりダイブした。


ほどよく訪れる眠気。

ふんわりと、疲労が体を覆っていく。



ただ話を聞いていただけなのに、体は思っていたよりもずっと疲れていたらしい。

同じ姿勢で、固い椅子に座っていたからだろう。


ベッドのマットに、疲れた体が沈んでいく。




(………来なかったな。)


成人式の会場に、あの子が現れることはなかった。


あの子。

5年の時を経て、俺を立ち止まらせるあの子。


天宮 春奈。



来ないだろうとは思っていた。

この町に戻ることないのだろうと、心のどこかで分かっていた。


それなのに、見つけられずに終わってしまったことに落ち込む自分がいる。

会えなかったことを残念に感じる自分が、ここにいる。



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