さよならの魔法
期待していたんだ。
俺は、勝手に期待して待っていたんだ。
自分勝手さは、あの頃も今も大して変わっていないということか。
(何だか、無駄に疲れた気がする………。)
ただ座っていただけなのに、体が言うことを聞いてくれない。
普段とは違うことをしたせいだろう。
頭も体も、ずっしりと重い。
(………ねむ、い………)
ベッドに沈む体が、動かない。
強烈な眠気に襲われて、眠りの海に意識が飲み込まれていく。
薄れていく意識。
遠くなる意識の糸を手繰り寄せたくて、頬を何度か強く叩いた。
「ダメだ!寝るな、俺………。」
刺激を与えておかないと、襲いくる眠気を抑えていられない。
我ながら、情けないけれど。
予定がなかったのなら、このまま眠っていたことだろう。
疲れた体に正直に身を委ね、体を休ませてやりたい。
しかし、今日だけは、そういう訳にはいかないのだ。
今日は、同窓会だ。
5年ぶりに、クラスメイト達に会える夜。
寝てなんていられない。
この機会を逃せば、クラスメイトだったヤツらに会うことはそう簡単には叶わないだろう。
浴室に行って、熱いシャワーを浴びる。
熱いシャワーを浴びれば、眠気に襲われていた俺の脳も、俺の意思に従ってくれる。
濡れた体から上がる湯気。
ロゴが入った、真っ白な長袖のTシャツ。
細身のブラックジーンズは、膝の部分だけわざと穴が開いている。
上には買ったばかりの青いチェックのシャツを羽織り、その上から更に、黒いダウンを着込む。
薄っぺらいシャツで耐えられるほど、この町の冬は優しくない。
この町の冬は厳しく、生半可なものではない。
身に染みて分かっているからこその選択。
(もう時間か………、早いな。)
ゆっくりしているつもりはなかったけれど、シャワーを浴びたり準備をしているうちに、随分時間が経ってしまっていたらしい。