さよならの魔法
今の私とは違う。
同じなんかじゃない。
分かっているのに、どうしても重なるんだ。
あの頃の自分と、今の変わっているはずの自分が。
天宮 春奈【アマミヤ ハルナ】、20歳。
私が握り締めているのは、1枚のハガキ。
宛名は、もちろん自分の名前。
母親から転送されてきたそのハガキは、私を遠ざかっていた生まれ故郷へと誘うものだった。
天宮 春奈 様
20××年1月10日
市立弥生が丘中学校
平成××年度卒業生
3年1組 同窓会を開催します。
ご都合のよろしい方は、是非参加して下さい。
もう、この町に来ることはないと思っていた。
戻ることはないのだと、そう心に決めていた。
あの魔法は、今でも解けずにいるのだろうか。
さよなら。
さよなら。
泣いていた私は消えるんだ。
さよなら。
さよなら。
何も言えない自分は、今、この瞬間からいなくなる。
新しい自分に生まれ変わるんだから。
いじめられていた過去なんて、忘れてやる。
そんな過去はいらない。
真っさらな自分に生まれ変わる。
最初から、全てをやり直すんだ。
そうすれば、この恋も消える。
きっと忘れられる。
新しい自分に生まれ変われば、この切ない想いも忘れられる………。
それは、5年前に自らかけた魔法だった。