さよならの魔法
地味だとか、無口だとか、よく知りもしないクセに好き勝手言うヤツはいた。
そんな言葉を聞く度に、心の中で悪態をついていたけれど。
俺と同じく、大概の人間は彼女に対して嫌悪感を持っていない様に感じた。
少なくとも、この春の時点では。
確かに、あまり話さない。
言葉数は少ないし、いつも俯いて下を向いている。
明るい性格とは言い難く、クラスの中では目立たない存在。
だけど、秋の夜の静けさの様な雰囲気を纏う彼女は、クラスの空気にそれなりに溶け込んでいた。
それと、あと1人。
知ってる人間の中で、同じクラスに分けられたのは、あの増渕 茜。
矢田が騒いでいた、あの増渕だ。
クラス替えがあった始業式の日、恨めしそうに矢田が文句を言ってきたのを覚えている。
「おはよー、矢田。」
「はよー!………つーか、お前、1組なんだな。」
「そうだけど。」
「何で、お前が1組なんだよ!!くそっ!」
「意味分かんないから。………いきなり、くそとか言うなよ。」
突然の言葉に、思わず眉をしかめる俺。
「あー、何で、お前が増渕と一緒のクラスになるんだよ………。俺、クラス違うのに!」
「知るかよ、そんなの。決めた先生に言えよ。」
「あー、不条理だ!おかしいだろ、ほんとに!!」
そうそう。
今年は、矢田とは別のクラスになってしまったのだ。
俺と矢田がクラスが違うということは、矢田とあの増渕もクラスが別になってしまったということ。
あの日、クラスメイトの悪口を言っていた罰が当たったのだろうか。
それとも、ただの偶然なのだろうか。
悔しそうに顔を歪める矢田を、笑顔で2年1組の教室から見送った。