さよならの魔法



変な顔をされたらどうしようって、内心、ビクビクしていたんだ。


扉を開ける直前まで、私は怯えていた。

震える手で、あの扉を開けた。


でも、開けてみたら違っていた。

現実は、私が思っていた通りには進まなかったのだ。



みんなは、思いの外、笑顔で受け入れてくれた。


1年以上、教室に顔を出すことがなかった私のことを。

幽霊みたいに薄い存在だった、私のことを。




「だ、大丈夫!大丈夫だから………。それより、天宮さん、ほんとに久しぶりだね!!」

「うん、久しぶり………だね。」

「昔と全然違うから、一瞬、誰なのか分かんなかったよ。」


私にあのハガキを送ってくれた、クラス委員だった女の子。

西脇さん。


変わってしまった私にひどく驚いていたけれど、真っ先に私に笑顔を向けてくれた人。



「天宮さん、気にしなくていいんだよ。」

「え?」

「ああいうのって、物珍しくて騒ぎたいだけだからさ。」

「物珍しい………?」

「そう。」


他人の目を気にする私に、そう言ってくれた。




「乾杯しよー!」

「また!?今度は、何に乾杯するの?」

「んー、じゃあ、天宮さんがこっちに久しぶりに戻ってきたことに………かんぱーい!」

「はーい、かんぱーい!!」


それと、同じクラスだった女の子達。


同じクラスに通っていた時には話したことさえなかったのに、気さくに輪の中に入れてくれた。

自然に、私をその中に混ぜてくれた。



予想もしなかった人との触れ合いもあった。




「いや、さ………、天宮が来てるってみんなが言うから、ちょっと話がしたいなーと思って。」

「話って、私………と?」


松島くん。

磯崎さんと1番仲が良かった、同じクラスの男の子。


同じクラスの男子の中で最も苦手に思っていた彼が、思いもよらず、積極的に話を振ってきたのだ。



松島くんが、私に近付いた理由なんて分からない。

彼が何を思っているのかなんて、あの頃だって分からなかった。


< 410 / 499 >

この作品をシェア

pagetop